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Hugh De Pree

2026/03/05 By 片上太朗

D.J. デプリーが築いた「誠実なデザイン」という土台の上に、劇的な実用性とシステム性をもたらしたのが、その息子であるヒュー・デプリー(Hugh De Pree)です。彼の在任期間(1962年〜1980年頃)は、ハーマンミラーが単なる「家具メーカー」から、世界中の「働き方」を定義するリーダーへと変貌を遂げていく、非常に濃い時間でした。

Hugh De Pree

Hugh De Pree(1962–1980)

1962年、ヒュー・デプリーは父D.J. デプリーからバトンを受け取り、ハーマンミラーの社長に就任します。もともとミシガン州ホランドのローカルな家具メーカーだった同社は、彼の時代に、デザインと人間工学を武器に世界へと打って出る「モダンオフィスの先導役」へと育っていきました。

デザイナーだけでなく、発明家や研究者とも積極的に組み、製品を「きれいな家具」から「働き方そのものを支えるシステム」へと拡張していったのが、ヒュー・デプリーという経営者の大きな特徴です。

 

アクションオフィスと「動くオフィス」の発想

ヒュー時代を語るうえで外せないのが、ロバート・プロプストとともに生み出した「アクションオフィス」です。固定配置された机が整然と並び、上司の目線が効くように設計された従来のオフィスに対して、プロプストは「人間の動き」と「情報の流れ」から考えるまったく新しいレイアウトを提案しました。

ヒューはその大胆な試みに賭け、オフィス空間を「変化しつづけるべき職場」として捉え直します。可動パネルやワークサーフェスを組み合わせて、仕事の内容やチームの構成に合わせて、空間そのものを組み替えていく。いまの感覚だと当たり前に聞こえるかもしれませんが、当時としてはかなりラディカルな発想でした。

専門店の立場から見ると、この「動くオフィス」という思想が、後のアーロンチェアのような高機能ワークチェアに求められる役割を、じわじわと準備していったように思えます。座り方が仕事によって変わるなら、椅子もまた「ひとつの姿勢に固定されない」存在であるべきだ、という流れですね。

 

 

経営と組織の近代化:スキャンロン・プランと株式公開

ヒュー・デプリーの仕事は、製品の革新だけではありません。会社の中身、つまり経営のやり方や組織のあり方そのものを変えていったのも、この二代目の大きな功績です。

 

従業員参加型の「スキャンロン・プラン」

その象徴が、従業員の参加と利益配分を組み込んだ「スキャンロン・プラン」の導入です。ミシガン州では初の本格的なスキャンロン・プランと言われており、現場の知恵と経営数字を結びつけ、「成果をみんなで分かち合う」仕組みとして機能しました。

きっかけは、ヒューが心理学者カール・フロストの講演を聞き、その理念に強く共感したことだと伝えられています。トップダウンで管理するのではなく、現場の工夫や改善提案を積極的にくみ上げ、その成果をボーナスとして還元する。いま風に言えば、「ESG経営」や「従業員エンゲージメント」をかなり早い段階から制度として組み込んだ、とも言えます。

 

Carl Frost

産業心理学者カール・フロストは、スキャンロン・プランを通じて『みんなを経営に参加させること』の大切さをハーマンミラーに教えてくれました。1952年には、その知恵への感謝として、ハーマンミラーの従業員120人全員で、ビュイック(自動車)をプレゼントしています。

 

家族企業から公開企業へ

もうひとつの大きな転換点が、1970年の株式公開(IPO)です。ハーマンミラーはこの年にパブリックカンパニーとなり、資本市場からの信頼を背景に、海外拠点の開設や新工場の建設を進めていきます。

ローカルなファミリービジネスから、世界に向けて開かれた企業へ。それでも「人を大事にする会社であること」を手放さないために、利益分配や情報公開、社内コミュニケーションのあり方を細かく調整していったのが、ヒュー時代のハーマンミラーです。

 

 

人間中心の哲学と、マックス・デプリーへのバトン

Hugh De Preeヒュー・デプリーは、リーダーシップを「支配」ではなく「奉仕」として捉えていた人でした。リーダーの役目は、ルールを振りかざすことではなく、メンバーが力を発揮できる環境を整え、成果を共に分かち合うことにある。

この姿勢は、弟のマックス・デプリーが後年『Leadership is an Art』などの著作で世に広めたサーバント・リーダーシップの思想と、明らかに地続きです。マックスは「リーダーの最初の責任は現実を定義することで、最後の仕事は“ありがとう”と言うこと。そのあいだリーダーは、奉仕者(サーバント)であり、負債者である」と書いていますが、その背景には、ヒューとともに歩んだハーマンミラーでの経験が色濃く反映されています。

1980年、ヒューはCEOの座を弟マックスに譲り、自身は経営の第一線から一歩退きます。とはいえ完全に手を放したわけではなく、会長や相談役として、会社の文化や価値観が次世代にうまく受け継がれていくよう目配りを続けました。

ハーマンミラーは2000年代に入ってから、自社を「6,000人を超える従業員と、その周囲のパートナーから成るコミュニティ」と定義しています。この「コミュニティ企業」としての自己イメージは、数字の成長だけを追いかけるのではなく、人と人の関係性や信頼を会社の中心に置こうとした、デプリー家三代の長い試行錯誤の結晶なのだと思います。

 

ヒュー・デプリーがハーマンミラーに残したもの

ヒュー・デプリーがいなければ、ハーマンミラーのオフィスチェアも「座り心地の良い名作椅子」で終わっていたかもしれません。それでも十分すごいのですが、それだけだと「たくさんある名作のひとつ」で止まってしまう気がします。

ヒューが「オフィスは変化し続けるべき場所だ」と考え、アクションオフィスやシステム家具を通じてその思想を形にしたからこそ、「あらゆる姿勢の変化に対応できる椅子」の多機能性が、後になって「やりすぎ」ではなく当然必要なものとして受け入れられる土壌ができたのではないか。と感じています。彼が推進した「システム家具」の発想は、椅子を単体のプロダクトではなく、「ワーカーの12年間の生活を支えるインフラ」として見る視点につながります。



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カテゴリHerman Miller, Herman Miller Story

片上太朗監修:片上 太朗(ハーマンミラー認定スペシャリスト:エルゴノミックアドバイザー)
ハーマンミラー製品の販売・提案・調整・製品保守業務に20年以上携わる専門家(エキスパート)。製品情報・調整ガイド・サイズ選定に関する内容を監修しています。
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