ジョージ・ネルソン
Storagewall
ジョージ・ネルソンはエール大学で建築を学んだのち、1935年にArchitectural Forumという建築雑誌の編集者になりました。 “Tomorrow’s House” (Henry Wrightと共著) という本の中で、ネルソンはStoragewallというコンセプトを発表します。ストレージウォールは、キャビネット/シェルフ/ドロワー/クローゼットからなるモジュール式の壁面収納家具システムでした。
そのコンセプトに興味を持ったD.J.デプリーは、ハーマンミラーのニューヨーク営業担当者に著者とのアポイントメントを指示します。営業担当者は、最初Henry Wrightに連絡をとりますが、ネルソンを紹介されました。デプリーはネルソンとミーティングを行いギルバート・ローディの後任業務の打診をします。
編集者としてキャリアを積んできたネルソンは、デプリーのオファーに当初難色を示したと言われています。しかし、結果としてハーマンミラーのディレクターに就任します。
George Nelson 1908-1986
ジョージ・ネルソンデザイナーの視点から見ると (そしてこの視点のみが私には適切なのですが) ハーマンミラーは、とても優れた会社です。単に企業としてみると、ハーマンミラーはアメリカ国内の何千もの他の企業と区別ができないでしょう。小さな会社で小さな町にあります。その製造設備は十分ですがごく普通です。そして、この会社のオーナーが経営をしています。 (中略)
製品は誠実でなければならない。ハーマンミラーが、ある年代の複製品を製造することを中止してから約12年経ちます。なぜならデザイナーのギルバート・ローディが、伝統的なデザインを模造することは、美学的に不誠実だと経営陣を説得したからです。 (この話を最初は話半分で聞いていましたが、その後の数年でこの話の意味を身をもって知りました)
私たちが何を作るかは私たちが決めます。ハーマンミラーは市場が何を「認める」のかを理解するために、消費者調査や製品の予備テストを実施したことはありません。デザイナーと経営陣が家具の特定の問題に対する解決策を気に入れば、それは製造されます。いわゆる「一般人の好み」という基準に従いません。「一般購買者」を評価する特別に信じている方法もありません。ハーマンミラーのデザインの新鮮さに数多くの人が魅了される理由は、この会社が誰の真似もしていないからなのです。
ネルソンは当初、規模がそれほど大きくない家具メーカーであるにかかわらず、社長以下やたら志の高い人々を前にして少したじろいだような気がします。そう考えると、上記の序文はネルソンが“腹を括った宣言”のようにも思えます。事実、その後ネルソンのもとでハーマンミラーが世に送り出した製品は“誰の真似でもない”ものでした。
ネルソンは製品開発に留まらず、製品を販売するにあたってのマーケティング・アドバタイジング・ブランディングなどすべてをコントロールしていました。それらの表現手法も製品に劣らず斬新なものでした。販売前に消費者テストはしないと言い切る反面、新しい価値を持った製品を人々に正しく伝える手法にかなりの労力を費やしたのではないでしょうか。